従業員を雇ったら整備しなければならないものとは?
今回は、従業員(パートタイマー、アルバイト問わず)を雇った場合、会社で整備しなければならない書類について解説していきます。
労働基準法では、労働者を雇用する企業に対し、労働者名簿や賃金台帳、出勤簿等を整備し、保存することを義務づけています。これらは「法定三帳簿」とも呼ばれ、適切に整備していない場合は処罰の対象となります。また、労働者の適切な労務管理のためにも、法定三帳簿をきちんと整備しておくことが必要です。昨今、よく耳にする助成金でも、これら帳票の整備ができていないため、手続きに時間を要したり、申請できなかったりするケースがみられました。
目 次
労働者名簿
労働基準法第107条は、企業に対し、各事業場ごとに各労働者(日々雇い入れられる者を除く)の氏名や生年月日、履歴等について記入した「労働者名簿」を作成することを義務づけ、労働者名簿の記入事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正しなければならないことを定めています。
労働者名簿は、パートやアルバイトを含めたすべての労働者(日雇い労働者は除く)について作成することが必要であり、労働者を1人でも雇っている場合は、必ず作成しなければなりません。
労働者名簿は事業場単位で作成が必要となりますが、この「事業場」は場所の観点によって判断されます。同一の場所にある場合は原則として一つの事業場とみなされ、離れた場所にある場合は原則として別の事業場とみなされることから、一つの企業に複数の支社がある場合は、それぞれの支社ごとに労働者名簿を作成しなければなりません。
労働者名簿に記入すべき事項
労働者名簿に記入すべき事項は、労働基準法第107条および労働基準法施行規則第53条により、下記のとおり定められています。
- 労働者の氏名
- 生年月日
- 履歴
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類
- 雇入の年月日
- 退職年月日およびその事由(退職の事由が解雇の場合はその理由を含む)
- 死亡の年月日およびその原因
ただし、従業員が30人未満の事業場の場合、「従事する業務の種類」の記入は不要です。
労働者名簿の保存期間および起算日
労働者名簿は、労働者の死亡、退職または解雇の日から3年間保存することが必要です。(注1)
書類の保存との兼ね合いもありますので、必ず、労働者名簿には退職年月日を忘れずに記入するようにしましょう。
労働者名簿の整備にあたって注意すべきポイント
労働者名簿は、パートやアルバイトを含め、日雇い労働者を除いたすべての労働者について作成することが必要ですが、きちんと手続きを踏んでいれば作成は簡単に作成できます。
具体的には、雇い入れ時に雇用契約書を交わし、その内容の確認を他の書類などで行えば自然と従業員の住所や生年月日など必要事項について集めれますので、特段何か作業が必要ではありません。しかし、雇用保険などの手続きにはマイナンバーも必要ですのでお忘れなく!
また、就業規則と違って、会社は、従業員10人未満であっても(例えアルバイト従業員1名であったとしても)従業員一人ひとりについて作成しなければなりません。
さらに、労働者名簿の記入事項に変更がある場合はすみやかに書き換えることが義務づけられているため、従業員に住所変更や氏名変更などがあった場合はすみやかに届出させるようにすることが重要です。これは、定期的に報告を求める、臨時の届出書を作るなどシステムを考えておくことも必要になります。
賃金台帳
労働基準法第108条は、企業に対し、各事業場ごとに「賃金台帳」を作成し、賃金計算の基礎となる事項や賃金の額などについて賃金の支払いのたびに遅滞なく記入することを義務づけています。
労働者名簿とは異なり、賃金台帳は日雇い労働者も含めたすべての労働者について作成しなければなりません。また、賃金台帳は賃金が支払われるたびに記入しなければならないことから、毎月1回必ず書き足されていくことになります。
このように、賃金台帳は膨大な量になることから、求められた場合にすぐに印刷して提出できるように管理していることを条件として、パソコン上のデータでの保存など紙媒体以外で保存することが認められています。
賃金台帳に記入すべき事項
賃金台帳に記入すべき事項は、労働基準法第108条および労働基準法施行規則第54条により、下記のとおり定められています。
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働、休日労働および深夜労働の労働時間数
- 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額
- 労使協定により賃金の一部を控除した場合はその金額
なお、管理監督者については労働時間数や時間外労働、休日労働の時間数を記入しなくてよいとされていますが、深夜労働の時間数については記入することが必要です。
賃金台帳の保存期間および起算日
賃金台帳は、最後に記入された日から3年間保存することが必要です。(注1)ただし、賃金台帳が源泉徴収簿を兼ねる運用をしている会社もありますが、その場合は源泉徴収簿の保存期間が7年であるため、7年間の保存が必要になりますので、ご注意ください。
賃金台帳の整備にあたって注意すべきポイント
賃金台帳は、賃金の支払いのたびに必ず記入しなければなりません。賃金は毎月1回以上支払う必要があることから、賃金台帳も毎月1回以上記入することが必要です。
また、賃金台帳の記入にあたっては労働時間数を正確に管理することが必要不可欠であり、時間外労働や休日労動、深夜労動の時間数もそれぞれ明確にしなくてはなりません。それぞれの労動時間数を自動で集計してくれるクラウド型勤怠管理システムなどを活用しながら、労働時間数を正確に管理し、賃金台帳に記入するようにしましょう。
出勤簿等
厚生労働省が2017年1月末に公表した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、使用者には労働時間を適正に把握する責務があること を規定し、その手段、道具としての出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録、利用法等まで踏み込んで示しています。
出勤簿等に記入すべき事項
出勤簿等についての様式とか記載事項とかは、労働基準法や関連諸法令で特に取決めはありません。ただし、上記に示したガイドラインにもあるように労働時間等を正確に把握できるような情報を記入しておくことが必要です。そのため、下記の事項については記入しておくようにしましょう。
- 氏名
- 出勤日と労働日数(出社・退社時刻を含む)
- 日別の労働時間数
- 時間外労働を行った日付と時刻・時間数
- 休日労働を行った日付と時刻・時間数
- 22時から翌5時までの深夜労働を行った日付と時刻・時間数
- 休憩時間
出勤簿等の保存期間および起算日
出勤簿等は、労働者の最後の出勤日から3年間保存することが必要です。(注1)
出勤簿等の整備にあたって注意すべきポイント
出勤簿等の作成にあたっては、出勤日だけでなく、毎日の始業時刻や終業時刻についても正確に記入することが必要です。クラウド型勤怠管理システムを活用することで、日々の始業時刻や終業時刻を正確に記録することができるので、このようなシステムを活用しながら、正確に出勤簿を作成するようにしましょう。
(注1)2020年の労働基準法改正(保存年限)について
今回、2020年4月施行の改正民法では、旧民法の第174条(賃金債権の時効は1年と定めていました。)は削除され、賃金債権の時効期間が5年に延長されました。よって、関連法令の見直しで、労働基準法も見直しを行い、第109条の賃金台帳、労働者名簿、雇い入れ、解雇、災害補償、賃金その他、労働関係に関する重要な書類については、保存義務が5年間に延長されました。
ただし、この見直しについては、労働者側と企業経営者側の双方の意見が対立することになりました。
そこで国は、最終的には企業経営者側に配慮し、間をとって消滅時効を当面は3年とする折衷案で話をまとめました。
現在は、2020年4月の改正労働基準法の施行後、「今後5年間は様子を見て、改めて賃金債権の時効を5年へ延長するか検討予定」となっています。
賃金請求権の消滅事項が5年に延びる(当分の間3年)ということは、しっかりと管理をしておかないと、もし、すでに退職した社員から未払い賃金を請求されたときに、反論すべき証拠が見当たらず、結局請求された賃金債権をそのまま支払わざるを得ない事態も想定されます。
まとめ
労働者名簿・賃金台帳・出勤簿等の「法定三帳簿」は、必ず整備しておくことが必要です。法定三帳簿を適切に整備していない場合、労働基準法により30万円以下の罰金に処されます。法定三帳簿は、労働基準監督署による臨検監督の際に提出しなければならないほか、労働者の適切な労務管理のためにも欠かせないものです。
法定三帳簿に記入すべき事項や各帳簿の保存期間は法令等により定められているため、内容をしっかりと把握したうえで、適切に整備・保存するようにしましょう。また、法令の改正等もあり、書類、データの管理には細心の注意が必要です。今回特に、企業においては、賃金債権の時効延長につき、2020年4月以降の法定三帳簿については、必ず3年以上保存、整備しておくことが欠かせません。
お困りのことがあればお気軽にご相談ください。